怪奇幻想二題

-- 蝶

何者かに追われる夢を見る。見知らぬ女に背中にナイフを突き立てられるところで目が醒める。それが幾夜も続く。
街を歩いていると夢で見た女に出会う。驚いて問い詰めるが、女は私のことなど知らないといって訝しげに走り去る。
また夢を見る。例の女が私の背中にナイフを突き立て、今度は上から下まで切り下ろす。
ぱっくりと割れた背中から人間が現れる。振り向いてみると、それは例の女自身である。裸身に血を滴らせ、恍惚の表情を浮かべている。私は意識を失う。
女が目を醒ます。ひどい悪夢のため気分が悪い。ふらつく体を引き起こし、ベッドから下ろした足が奇妙なものを踏む。
以前街で声を掛けられ、ついいましがた夢でも見た背中の割れた男の死体である。部屋の床は一面血だらけで、無数の白い蝶が群がっている。血を吸うに従い、白い羽が赤く染まる。
突然、蝶が飛び立ち、空間を赤く埋め尽くす。女は悲鳴を上げることすら忘れて立ちつくしている。

-- 梟

私の部屋に梟が棲み着くようになった。寝苦しさに耐えきれず開けていた窓から入ったらしい。暗い部屋で金色に眼を光らせている姿は不気味だが、何をするでもなくそこにいる。昼間は外に出ているようだ。しばらく窓は閉められない。

彼女は公園で一心不乱に花の密を吸う蝶に手を伸ばそうとしていた。私が石を投げると蝶は飛び立った。彼女が恨めしそうにいった。
「もう少しだったのに」
自分の部屋に梟がいる。見に来ないかと誘った。彼女は目を輝かせて頷いた。

梟を見た彼女はおずおずと近づいた。私は危ないから、と止めた。梟は威嚇するように翼を広げた。
「大きな翼」
「梟の翼は音がしない。獲物に気づかれずに襲いかかるんだ」
「するどい爪」
「あれで獲物を捕らえるんだ」
「怖いくちばし」
「あれで獲物を引き裂くんだ」
「でも眼はかわいい」
「暗くすると光るよ」
私は明かりを消した。金色に光る眼だけが私達を見つめていた。

深夜、帰る、と彼女がいった。遅いから送るといったのだが彼女はそれを断った。気が付くと、いつのまにか梟が見えない。妙な胸騒ぎを感じた私は彼女の跡を追った。

ようやく見つけた彼女は怪訝そうに私を見やった。いや、ちょっと心配になったものだから、とか適当な言い訳をしてしばらく歩いた。次に会う約束をして、彼女をタクシーに乗せた。襟元に血の染みのようなものが見えたが気のせいだったかもしれない。部屋に戻るとやはり梟の姿はなく、その後二度と現れることはなかった。

待ち合わせの公園でひとりベンチに座っていると、餌をついばむ鳩の群を猫が狙っていた。いまにも飛びかかろうとしたとき、私は小石を投げた。鳩の群は驚いて飛び立った。猫が恨めしそうにいった。
「もう少しだったのに」
猫はそのまま走り去った。何が起こったのか理解できずにいたところに彼女が現れた。
「いま猫が」
「え?」
笑顔で私を覗き込む彼女の目が金色に光った。私はすべてを悟った。


→耳袋 『猫がものをいうこと

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ふたつのスピカ

いつかロケットの運転手さんに、って無理

うちにはNS-100Mがあります……

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長すぎる。

--
作:ルナール 本間祐・編「超短編アンソロジー」(ちくま文庫)に収録

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盗まれた惑星(ほし) - 第1話 -

「わあ、ここが香織ちゃんの部屋かあ」

「やだ。あんまりじろじろ見ないでもらえる?」

「女の子の部屋って初めてなんだよね(どきどき)」

「もう、数学教えてくれっていうのは口実だったわけ?」

「まさか、それは本当。早速はじめようか」

「……でね、これが……でしょ?」

「……」

「……だからここがこうなって……坂口くん、聞いてる?」

「香織ちゃん!」

「きゃあっ」

「僕は、僕は前から君のことを!」

「だめよ、ぜったいだめっ!」

「もうがまんできない。愛してるんだ!」

「ひどいっ 坂口君のばかっ!」

「はぁはぁ」

「ひっく、ひっく。あ、そこは!」

「……!?」

「さあさあ一休みしたら……あなたたちっ、何してるの!?」

「ママ!」

「ぎくっ!」

「いますぐ娘の上からどきなさい。3秒でどかないと撃つわよ」

「ママ、乱暴はよして」

「乱暴されてるのはあなたでしょおバカさん。2、1……」

「どきます!よけます!」

「よくも大事な娘を傷ものに。この責任はどう取るつもり?」

「いえ、僕はまだなにも。彼女のパンツを降ろし、大股開きにしていざ、というときに踏み込まれたものですから」


「ま-っ!あなたは女の貞操の根拠を処女膜の有無にのみ求めようというの! 思いがけず性器を開陳させられた年端もいかぬ娘の気持ちはどうでもいいというわけ!?」




「ママ、あたし恥ずかしい……」


「当たり前です。これが平気でいられますか。平気でいられるような娘なら私が斬って捨てますっ」


 



「ま、待ってください。責任論はともかく、僕は香織さんを愛しています。香織さんとは将来結婚したいと思っているんです。このような場で申し上げるのは残念ですが、どうか香織さんと交際することを許していただけませんか?」






「そういう立派なセリフを口にするのはパンツをはいてからにしなさい。だいたいレイプまがいのまねをしておいていまさら交際云々なんてよくも言えたものね。警察に突き出されないだけありがたいと思いなさい。さあ、さっさと出ていって!」






「いえ、僕は本気です。彼女と一生添い遂げることを誓います。さっき、ちらっとしか見えませんでしたが、香織さんはふつうの身体ではないようでしたし……」

「ぎくぎくっ!」

「僕はきっと香織さんを幸福にします! ですから」

「……香織、例のことを知っている人間は他にいないんでしょうね?」

「もちろんよ、ママ」

「わたしたちの秘密を知られたからには生かして帰すわけにはいかない」

「な、なにをいってるんです?」

「冥土のみやげに教えてあげるわ。これが私達の正体よ」

「わあっ!」

「完璧な擬態だったはずだが。なぜばれたのだろう」


「(クリ○リスが3cmくらいあったらから「やった、当たりだ」と思っただけだったんだけど)なんなんですか、あなたたちは!?」




「われわれはレティクル座のホ星からはるばるやってきたホ星人だ。地球を半分奪うのが目的である」

「半分征服? ずいぶん中途半端なことをするんですね」

「征服ではない。半分いただくのだ。全部奪うのは宇宙環境保護法に反するからな」

「よくわかりませんが、半分奪われると地球はどうなるんでしょうか」


「愚かな地球人め。そんなこともわからんのか。地球の体積が1/2に縮小すれば表面積は1/6になるのだ。それはともかく、いいかげんにパンツをはいたらどうだ」




「(パンツをはきながら)そんなことができるんですか」

「できる。われわれの科学力を持ってすれば容易なことだ」

「ふっふっふ。それはどうかな……?」

「何者だ!」


(続く) ← 嘘


 


powerd by にがおえぱれっと

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短編小説・白い哀しみ

変わり大根というものがある。何かのはずみで大根が二股あるいはそれ以上に分かれるなどして、どことなく人間の形を連想させる大根のことである。見方によっては男女の区別が付けられるものすらあり、よくできたものは地方のテレビニュースなどで取り上げられることもある。ただし、その場合もあまり下品な連想を呼び起こすものは避けられることが多く、近所の下卑た話題の範囲内に収められるのがせいぜいである。

ときは22世紀。バイオテクノロジーの進展は止まることを知らず、遺伝子組み替えの研究は前世紀の人間の想像を遙かに越えて進んでいた。その開発資源の大部分は120億にも達しようとする人口爆発を背景とした食料危機の解決、特に食肉に比べて生産に要する投入エネルギーが桁違いに低い穀類・野菜類の改良に投入された。改良された穀類・野菜類の単位面積当たりの収量・栄養価は以前の品種のそれを大きく上回り、飢えと貧困に苦しむ多くの人々を救った。

そうした品種改良の過程で非常にユニークな成果が生まれた。

南米のある国に伝わる想像上の植物がヒントとなった。それは「アルラウネ」と呼ばれる大根もしくはニンジンのような根菜で、四肢を備えた人の形をしており、ふだんは山中に潜んでいるが、付近の土中に含まれる養分が少なくなると自ら歩いて人里に降り、人間の作った畑に植わって養分を吸い取るのだといわれている。アルラウネが畑に忍び込むと養分がすっかり吸い取られて収穫が激減するため、付近の農民からは非常に恐れられた。

当時、品種改良による収量の増大は既にほぼ限界に達しており、幾何級数的に増大する人口に対して田畑の面積が算術級数的にしか増大しない絶対的人口過剰構造を抜本的に改革することが急務となっていた。一方で、荒れ地を開墾し、灌漑施設を整備し、土壌を改良してそれなりの畑とするには莫大な時間とコストが必要とされる。

これを一挙に解決するものとして開発されたのが「アルラウネ」だった。これは中国のある研究所が開発した「能動的植物」、つまり養分を求めて歩き回る植物である。植物といえば大地に根を下ろし、日光と水と周囲の土中から得られる養分だけを得て成長するものだが、アルラウネは伝説の植物同様、養分が不足するとそれを求めて自ら地表を移動するのである。
もともとは大根をベースとして開発されており、成長時の大きさは約50cmほど。根幹部の上部から2本の根が分岐し、下部の根は二股に分かれている。ちょうど人間の形である。播かれた種から成長するのは普通の大根と同じだが、飢餓状態になると土中から這い出し、四本の「手足」を動かして時速1kmほどの速度で移動する。根の先端で地表を探り、適当な場所を見つけると土中に潜り込んで養分を吸収する。まさに伝説のアルラウネそのままである。ただ、アルラウネが土中で必要とする養分は一般の植物とは異なっていたため、周囲の植物を枯らすことはなかった。

当初はキワモノ扱いされたアルラウネだったが、莫大な初期投資が必要な耕作地を必要とせず、自分で勝手に生育に適した土地を捜し歩いて成長・繁殖する簡便性はやがて大きな注目を集め、世界中の科学者が類似の研究開発に没頭した。

改良のスピードは驚くほど速かった。アルラウネは約1.5mにまで大型化され移動効率が上昇。当初は一度しかできなかった移動も、週に一度程度の頻度で1回数キロに渡って歩くことが可能となった。
驚くことに食味は普通の大根とほとんど変わりがなく、食用とするには十分だった。動く大根など食べる気になれないという意見ももちろんあったが、そうした見方は差し迫った食糧問題を前に自然に消えていった。

栽培されたアルラウネは瞬く間に増殖し、至るところに根を下ろした。既存の農作物と競合することのないよう遺伝子を設定されていたため、自然と未開墾の荒れ地や山地で増え、そうした土地でアルラウネの姿を見かけないことはほとんどなかった。
やがて生まれたのが「アルラウネ族」である。彼らは栄養価が高く、人里離れた土地でいくらでも採取可能なアルラウネを主な食料として自給自足を旨とする暮らしを送った。社会から隔絶した彼らの生活は自生するアルラウネによって支えられ、労働の必要がない理想的な生き方だと考えた多くの人々が荒野に身を投じた。

食料危機が緩和されると、アルラウネの改良は別の側面に移った。すなわちアルラウネの人間化である。胴体に四本の手足がある程度だったアルラウネに頭、指、髪などが設けられ、その後も「人間そのまま」を目指して絶え間ない改良が続けられた。

やがて、女性の姿を忠実に再現したアルラウネが生まれ、全世界で爆発的なブームを巻き起こした。テレビタレント、映画女優、有名モデルそっくりのアルラウネが登場し、コレクターは競ってこれを買い集めた。そうしたアルラウネの種は高価で取り引きされ、独自に交配した品種を売って莫大な財産を築いたアルラウネ・ブリーダーも生まれた。
そうしたアルラウネに熱中するあまり、一部の男性が人間の女性に関心を示さなくなる現象が社会問題となったのもこの頃だった。こうした状況の中でアルラウネがダッチワイフとして使用できる機能を持たされたのはある意味当然であり、その流通は公然としたものではなかったがその存在を知らない者は誰一人としていなかった。
とうとうある女性団体がアルラウネの非道徳的な利用に反対する運動を起こした。「大根は畑に」「アルラウネの人権を守れ」「植物人間のレイプ反対」などと支離滅裂なスローガンを掲げて行われたデモ行進が大々的に報道され、全国の女性の共感を集めた。そうした中からアルラウネを非道徳的に利用することを禁止する法律の制定を求める声が挙がったが、世の男性諸氏による「大根でオナニーすることの何がいけない」「大根を禁止するならコンニャクイモの立場はどうなる」といった至極真っ当な意見の前にその目論見はあえなく費えた。だが、こうした行動はアルラウネを公衆の目に触れる地上で栽培する際は、できるだけ服もしくは類似の覆いを被せることがマナーとなったという形で実を結んだともいえる。

形態の改良が一段落すると、次に開発の矛先が向けられたのは知能だった。養分を求めて移動するとはいえ、そこに知性はない。初期のアルラウネが持っていたのはごく単純な神経回路だった。

かろうじて知能らしきものがあるとはいえ、形態が人間そのままであれば感情移入の余地は十分以上にある。意味ありげな視線を投げかける、転がしたボールを追いかける、栽培者を他人と区別して認識する、プログラムされた奇妙な動作をする、その他一昔前に人工無能と呼ばれた程度の会話のやりとりが可能になっただけで、あっというまにアルラウネは「家族の一員」と見なされるようになった。

幼児程度だったアルラウネの知能が成人並に発達するのにそう時間はかからなかった。最初、アルラウネは軽い労働に用いられるようになり(人の形をしているとはいえ大根なのでその力は弱く、無理に重いものなどを持つと折れてしまう)、動作の速度が人間並みに上がって知能も遜色なくなると、大抵の仕事はアルラウネが代わって行うことができるようになった。

ここに至って社会は一変した。人間は働かずアルラウネが働く。誰もが好きなだけ趣味に興じ、遊ぶことのできる理想の社会が実現したのである。

やがてアルラウネは芸能の分野にも進出し始めた。それまでにもダンスをするアルラウネは存在したが(それでも激しい動きは苦手で、踊れる時間もそう長くなく、主流はゆっくりとした動きを基調としたものである)、演技のできるアルラウネは珍しかった。緑色の髪を除けば見かけは人間そのもので、しかも理想的な美形揃いである。テレビ、映画、舞台にと活躍する場は多かったが、添え物、脇役程度に止まり、主役を演じることはほとんどなかった。

「演技だけはだめだね。やっぱり大根役者だ」

そう呟いた誰かのことばに誰もが大笑いした。

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